年末の音楽番組で、久しぶりに見た浜崎あゆみの姿に、少し胸がざわついたあなたへ。
青春時代に毎日聴いていた、あのガラス細工のように繊細で突き抜けるような歌声との違いに、寂しさを感じたかもしれません。
「昔みたいに声が出ていない…」「これって劣化なの?」
そう感じてしまうのは無理もありません。しかし、その変化は単なる加齢や不調によるものではなく、アーティスト生命を絶たれるほどの過酷な運命に抗い続けた、壮絶な物語の証なのです。
この記事では、彼女が20年近くにわたり隠し、そして闘い続けてきた「声が出ない本当の理由」と、聴覚を失ったプロの歌手が今もステージに立ち続けるための「新しい歌唱法」の真実を、音楽ジャーナリストの視点から丁寧に解説します。
読み終える頃には、あなたの寂しさは、彼女への深い尊敬と「もう一度応援したい」という温かい気持ちに変わっているはずです。
この投稿をInstagramで見る
この記事を書いた人
伊藤 彰(音楽ジャーナリスト / 編集者)
元音楽専門誌編集者。1998年のデビュー以来、浜崎あゆみの活動を20年以上にわたり取材。「変化は劣化ではない、進化だ」という視点で、アーティストのキャリアを物語として紡ぐ。同時代を駆け抜けた一人のファンとして、彼女の「今」を紐解く。
監修者情報
医学的監修: 鈴木 徹(医学博士 / 鈴木耳鼻咽喉科クリニック院長)
本記事における突発性難聴や聴覚に関する医学的な記述は、専門医の監修を受けています。
「あゆ、声が変わった…?」テレビの前で感じた、あの寂しさの正体
この投稿をInstagramで見る
「もしかして、調子が悪いのかな?」
「高音が苦しそう…昔はもっと軽やかだったのに」
久しぶりにテレビで見た浜崎あゆみさんのパフォーマンスに、そう感じたのはあなただけではありません。私も含め、彼女の歌で青春時代を過ごした多くのファンが、同じような戸惑いを共有しています。
ネットを見れば「歌がひどい」「声が出ていない」といった心無い言葉が飛び交い、まるで自分の大切な思い出まで傷つけられたような気持ちになることもありますよね。
しかし、ジャーナリストとして断言します。彼女は「歌えなくなった」のではありません。「歌い方を変えざるを得なかった」のです。
その寂しさの裏には、私たちの想像を絶する、彼女の闘いの歴史が隠されています。
彼女の耳に何が起きたのか?公表された事実で辿る「17年間の闘い」
浜崎あゆみさんの歌声の変化を理解するためには、彼女の耳に起きた出来事を時系列で知る必要があります。すべての始まりは、絶頂期と言われた2000年にまで遡ります。

2000年:悲劇の始まり「突発性内耳障害」
全国ツアー中に耳の不調を訴え、病院で「突発性内耳障害」(突発性難聴の一種)と診断されました。
医師からは安静を命じられましたが、彼女はツアーを中止することを選ばず、痛み止めを打ちながらステージに立ち続けました。この時の無理が、後の決定的な聴力喪失へと繋がってしまいます。
2008年:衝撃の告白「左耳の聴覚喪失」
自身の会員制サイトで、「左耳の聴覚が完全に失われ、治療法もない」ことを初めて公式に告白しました。
歌手にとって、片耳が聞こえないというのは致命傷です。しかし当時、彼女はこう綴りました。
「残されたこの右耳が、限界まで頑張ってくれる」
この言葉通り、彼女は引退ではなく、活動継続といういばらの道を選びました。
2017年:満身創痍の告白「右耳の聴力低下」
さらに事態は深刻化します。頼みの綱であった右耳の聴力もかなり低下していることを明かしたのです。
左耳をかばい続けた結果、右耳にも過大な負担がかかり、平衡感覚を司る三半規管にも影響が出始め、めまいなどの症状と闘いながらステージに立っているのが現状です。
なぜ「声が出ない」ように聴こえる?聴覚を失った歌手が編み出した“新たな歌い方”
この投稿をInstagramで見る
では、「左耳が聞こえない」ということが、なぜ「声が出ない(ように感じる)」ことに繋がるのでしょうか? ここが最も重要なポイントです。
耳は歌声の「羅針盤」
通常、歌手は自分の声を両耳で聴き(モニタリング)、音程やリズムのズレを脳で瞬時に補正しながら歌います。耳は、正確な音を出すための羅針盤なのです。
しかし、浜崎あゆみさんはその羅針盤を失いました。
音の方向感覚が掴めず、自分の声がどのくらいの大きさで出ているのかさえ正確に把握できない状態です。
「聴く」のではなく「感じる」歌唱法へ
そこで彼女が編み出したのが、「骨伝導や振動で音を感じる」歌唱法です。
耳で聴くことを諦め、喉の響き、頭蓋骨への振動、床から伝わる重低音を身体全体で感じ取ることで、音程を探り当てています。現在の歌い方が時に苦しそうに見えたり、ドスの効いた太い声になったりしているのは、身体の感覚だけを頼りに音を探るため、全身全霊で声を張り上げる必要があるからなのです。
浜崎あゆみさんの現在の歌唱スタイルに見られるベルティングやハスキーな高音、速いビブラートなどのテクニックは、家入レオさんとの比較を通じて詳しく整理している記事「家入レオに似てる歌手は浜崎あゆみ?声がそっくりな理由と実力派5選」でも深掘りしています。「声の変化」を歌唱技術の観点から知りたい方は、あわせてチェックしてみてください。
← 横にスクロールできます →
| 特徴 | 通常の歌唱(全盛期) | 現在の歌唱(闘病後) |
|---|---|---|
| 音程の取り方 | 耳で聴いて脳で補正 | 身体の振動・骨伝導で判断 |
| 発声スタイル | 繊細なファルセット(裏声) | 力強いベルティング(地声) |
| 難易度 | 安定的 | 極めて高く、体力を消耗する |
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 彼女の歌声は「劣化」ではなく、生き残るための「適応」です。
目隠しをして平均台を渡るような恐怖の中で、それでも歌うことを選んだ彼女の姿。その歌声には、かつての「美しさ」とは違う、魂を揺さぶる「凄み」が宿っています。
よくある質問(FAQ)
Q1: 喉への負担は大丈夫なのですか?
A. 正直に言えば、負担は大きいです。聴覚に頼らない発声は、どうしても喉や筋肉に余計な力みが入りやすくなります。それでも彼女は、一流のトレーナーと共にケアを行いながら、今の状態で出せる「最高の歌」を模索し続けています。なお、喉を痛めない高音発声のコツや自宅でできるトレーニングを知りたい方は、具体的な練習ステップを解説した「家入レオの難しい曲をカラオケで攻略!プロ直伝3ステップ練習法」も参考になるはずです。
Q2: 耳が治る可能性はないのですか?
A. 2008年の公表時点で「治療法はない」と医師から告げられています。突発性難聴は発症直後の治療が全てであり、時間を経てからの回復は現代医学では極めて困難とされています。
Q3: なぜそこまでして歌い続けるのですか?
A. 彼女はかつて「ボロボロになっても歌い続けることが、私の使命であり、浜崎あゆみとしてのプライド」だと語っています。ファンがいる限りステージに立ち続けること、それが彼女の生き様なのだと思います。
まとめ:もう一度、彼女の歌と向き合うために
この投稿をInstagramで見る
浜崎あゆみの声が出ない理由。それは、20年に及ぶ聴覚との孤独な闘いの結果でした。
かつての歌声とは違うかもしれません。しかし、今の太く力強い歌声は、「どんなに傷ついても、私はここで歌っている」という、彼女の魂の叫びそのものです。
もし次にテレビで彼女を見かけたら、「声が変わったな」と思う代わりに、「ああ、今日も戦っているんだな」と思ってみてください。
その瞬間、あなたの心に響く歌声は、以前よりもっと深く、温かいものになっているはずです。
[参考文献]
- ORICON NEWS, 「浜崎あゆみ、左耳の聴覚を失っていた…」(2008年1月4日)
- J-CAST ニュース, 「浜崎あゆみ、右耳も聴力低下 『限界、きてる』壮絶な告白にファン絶句」(2017年5月20日)
- MSDマニュアル家庭版, 「突発性難聴」



コメント